北海道新聞朝刊のコラム「朝の食卓」に記事を執筆しました。
北海道では白樺の樹皮のことをガンビと言います。今回はそのガンビの話です。
「ガンビの話」 有明 正之
阿寒の森に住み薪ストーブを使い始めたころ、近所の人がこれ使えと言って白樺の皮を持って来てくれた。北海道では白樺の皮をガンビと呼び、たきつけとして当たり前に使っていたそうだ。
実際に火をつけてみると、黒煙を上げジジジジと勢いよく燃える。油分が多いためすぐに着火し、火持ちもいい。乾燥させたものを適当な大きさに切って常備しておくと、最高のたきつけになる。
昔、山に入る猟師や木こりにとって、火おこしの材料としてガンビは必携品だったという。時には棒の先に巻き付け、たいまつとして使うこともあったそうだ。今風に言えば、まさにサバイバルグッズだ。
当時は、立木から切り取って使ったりもしたらしいが、樹皮をはがされた木は枯れてしまうので、今ではそんなことはしない。森の中を歩いていて、運良く拾ったときだけ、ありがたく使わせてもらっている。
ガンビを燃やしたときに出る煙には、燻煙のような独特の芳ばしさがある。だんだんとこの香りをかぐと、条件的にまきストーブのぬくもりを連想し、温かな心地よさを感じるようになった。
開拓時代の先人たちにとっても、ガンビの煙のにおいは心温まるものだったに違いない。そう想像すると、ほんの少しだけ当時の開拓者の気持ちを共有できた気がする。
(パイオニアラボ代表)・釧路