北海道新聞朝刊のコラム「朝の食卓」に記事を執筆しました。
パイオニアラボのある阿寒の森に生息しているヒグマの話を書きました。
「熊出没注意」 有明 正之
街に行こうと車を走らせていたら、左手のササやぶから大きな生き物が飛び出した。
ヒグマだっ! あわててブレーキを踏むと、そのクマは道路を横切って反対のやぶに走り去った。一瞬の出来事だった。
私たちの暮らす阿寒の森にヒグマが生息していることは知っていた。足跡や落とし物は度々見かけていたし、地元の猟師によると、わが家の裏手が通り道らしい。
しかし、十数年暮らして実物を見たのはこれが初めてである。まぶたの裏にリアルに残るヒグマの姿を思い出しながら、しばしシートの上で初遭遇の余韻を楽しんだ。
ヒグマが生息する森に暮らしているのだから、「怖さと注意」を忘れないように心がけている。森を歩くときは必ず鈴を鳴らし、残飯やごみは絶対に外に放置しない。
ヒグマの方でもわが家から一定の距離以内には近づかないよう気をつけているふしがある。お互いに相手の生活には干渉しないのがこの森に暮らすルールであり、野生動物とうまくつきあう秘訣である。
怖さを忘れ、注意を怠ると、事故が起こるかもしれない。それはどちらにとっても不幸な結果になってしまう。
そうならないために、緊張感だけは忘れないようにしながら、動物たちと近所つきあい出来るこの森の暮らしを楽しんでいる
(パイオニアラボ代表)・釧路