北海道新聞の連載コラム「朝の食卓」に記事を執筆しました。
田舎暮らしは楽しいけれども不便なもの。
便利ばかり追求していては何か大切なものを見失いそうな気がします。
「不便な暮らし」 有明 正之
釧路市阿寒町のはずれにある自宅に帰ると、水道が凍結していた。「水落とし」を忘れていたのではなく、逆に水道の蛇口を閉めてしまったことが原因だった。
わが家の水は森の中のわき水を引いている。ホースは地面をはわせているだけだ。冬は蛇口を開けっぱなしにしている。流し続けてないと、ホースの水は、あっという間に凍ってしまうからだ。
それが凍ってしまった。一度凍ると、そのホースは春まで使えない。水を使うには、水源まで百㍍以上の距離を予備のホースを自分で引き直さなければならない。なかなか不便な生活である。
また、これから雪解けが進むと、わが家につながる道路はぬかるんで通行不能になる。自動車を家の五百㍍手前に止め、そこから歩く生活が一カ月半ほど続く、これまた今どきあまり無い暮らしと言える。
かように自然の中の暮らしというのは不便なものだ。だが、決して不快ではない。むしろその不便さを自分のアイデアと工夫で解決していくことが楽しい。便利だが、素人の手では修理もままならない電化製品にばかり囲まれた最近の生活では、味わえない楽しさだ。
手入れして修理を重ねるごとに愛着が深まるレトロな道具のように、私たちの手作りの生活は年を経るにつれ、味わいを増す。
(パイオニアラボ代表)・釧路